• 後藤建設工業株式会社(福島県南相馬市)
  • 現場:福島県南相馬市
  • 取材:2015年5月

南相馬市の震災復興は、2015年5月(取材当時)も、たゆみなく着実に進められている。市内の国道には、ひっきりなしにダンプトラックが行き交う。

東日本大震災は、市内を流れる2級河川・真野川にも大きな被害を与えた。「酷いところは堤防が70cmほど沈下しました」と、後藤建設工業(株)工事部土木部長の髙橋正弘氏は図面を指さす。「私どもは現在、傷んだ堤防に土を盛り、復旧する工事を請け負っています」。

工区は河口から3km上流まで。通常なら3〜4年の工事だが、復興工事の工期は約1年半だ。工期短縮策として、コマツレンタル相馬店では同社にICT建機の活用を提案した。最初に稼働を開始したのはICTブルドーザーで、今年1月にはPC200iを1台導入し、4月には2台目を追加した。

[インタビュー]
後藤建設工業株式会社
工事部土木部長 髙橋正弘氏
工事部営業課長 後藤秀宏氏

スマートコンストラクションによって、丁張りが不要になった。作業中に丁張りを壊す心配もないし、雨や雪でズレて再測量する必要もなくなった。「検査のための測量や修正作業も減れば、納期短縮のメリットはさらに大きい」と髙橋氏は語る。

現場のオペレーターは熟練揃いだ。髙橋氏によると、ベテランオペレーターがICTショベルを使っても作業速度自体には大きな差がないという。段切りや法面(のりめん:斜面のこと)整地の際、熟練オペレーターは、設計面まで一気に掘る場合もあれば、少しずつ整える場合もある。土質をその場で判断し、経験を活かした最適な操作を選択しているのだ。バケットの背を斜面に合わせて土を押し固める難しい操作も、ベテランは難なくこなす。「PC200iは掘り過ぎないから安心できると聞いている。だが難しい作業でベテランを満足させるには、更に熟成が必要な部分もある」と髙橋氏は考えている。

市内の海岸に目を移すと、防波堤の復旧強化工事の傍らで、防災林造成工事が進められている。海岸線に土を入れて高台を作り、将来的に松林にする。林の幅を震災前の2倍にし、防潮・防風の能力を高めるのだ。この作業を後藤建設工業が担当している。1万m2の現場は、従来工法であれば丁張りに約1週間を要しただろう。ICT建機の導入で、この丁張りが不要になった。建機作業の前の準備は、わずか1日に短縮された。

防災林造成工事でのり面造成に活躍するPC200i
堤防工事で法面造成に活躍するPC200i。土手や堤防の強化では元々の土をいったん階段状に削る(段切り)。
その上から土を盛り、締め固めることで、雨でも崩れない強固な土手を築くことができる。ICTショベルはバケット先端の「刃先」位置を正確に自動制御できるが、バケットの底面を使って「こて」のように均すにはオペレーターの技量が必要となる。

現場でPC200iを操作する大内八郎氏は65歳。この道32年の熟練オペレーターだ。彼も最初、PC200iより手動の方が仕事が速いと感じた。が、逆にICTショベルの能力を知るため、あらゆる操作を試してみたという。納得がいくまで、結局、約3カ月かかった。

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ICTの正確性を高く評価する大内氏

「人間の目は当てにならない」、それが大内氏の実感だ。いかに経験を積んでも「通り」(水平方向)の誤差は避けられない。目に見えない傾斜をつける作業にいたっては、熟練オペレーターでも不可能だ。「コマツにはICT建機をもっと磨いてほしいが、われわれもこの機械に慣れなければいけない。しっかり使いこなせば、人の目ではできない作業までできる。それは本当に素晴らしいことだ」。