コマツの経営とESG

2016年4月、コマツは2019年3月をターゲットとした中期経営計画を発表し、この中で「ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視した経営を行う」と明言しました。その後、「どのような活動に重点を置くのか」、「CSR重点分野との関係性は」、「いかにSDGs(国連 持続可能な開発目標)の達成に寄与するか」といった議論を社内で重ねるとともに、投資家の皆さまへの説明なども行ってきました。これらの議論の結果、創業当時からコマツの中心にある一貫したテーマが浮かび上がってきました。

受け継がれる創業者・竹内明太郎の思い

コマツのCSRの考え方は、創業者・竹内明太郎から世代を越えて脈々と受け継がれてきたものです。

コマツ創業者の竹内明太郎は、1860年、高知県に生まれました。政治家であり実業家でもあった父親からいくつかの鉱山経営を託されたことが、実業家としてのスタートでした。

現在も石川県小松市にその跡が残る「遊泉寺銅山」の本格経営に乗り出したのは1902年のこと。やがて明太郎は、鉱山開発だけでなく工業技術にも高い関心を示します。特に欧州諸国を訪れて見学した最新技術が、当時の日本とは比較にならないほど高水準だったことに衝撃を受けました。「日本の将来の礎は工業技術の蓄積にある」。そして「鉱山は掘り尽くせばなくなるが、工業技術は訓練するほど新たな産業を生み出す力がある」。この確信が、明太郎を機械工業会社の設立へと導きます。

1917年、遊泉寺銅山にほど近い場所に、銅山で使用する鉱山機械などを作るための「小松鉄工所」を設立しました。小松鉄工所は、1921年に鉱山経営を営む親会社から分離独立し、「株式会社小松製作所」(現コマツ)として産声を上げます。明太郎は、会社設立の地を東京ではなく小松市にした理由を「その地方に受けし寄与に報いんがため」、「鉱山廃止後におけるその地方の衰退に影響を来たらしめんがため」と語っています。

コマツ創業の背景には、技術を通じて地方経済の持続的な発展に寄与する雇用創出により地域社会に貢献する、といった思想があったのです。

遊泉寺銅山全景(1908年頃)

「遊泉寺銅山が廃鉱になった時、
銅山で働いていた人たちはどうなるのか。
その地域社会は廃鉱とともに廃れていくのか」

今から100年前、明太郎の抱いたこの思いが、コマツの前身である「小松鉄工所」を誕生させた。

技術者の育成に心血を注いだ生涯

コマツの前身である小松鉄工所の時代から、明太郎が特に情熱を注ぎ続けたのが技術者の育成でした。技術者を欧米各国に留学させるとともに、1917年には社内に「見習生養成所」を設置。地域の農村の若者を選抜し、基礎技術の教育に当たりました。この私設学校は小松製作所工科学校としてコマツに引き継がれ、1973年まで存続しました。

明太郎は社内の技術者育成はもとより、日本全体の工業技術の底上げを志していました。彼は、早稲田大学の理工科(現在の理工学部)の新設に大きく貢献し、後には故郷の高知県に工業高校を創立しました。

また、自社だけでなく、地域社会の発展を視野に地元の協力企業に対する人材育成にも力を注いできました。コマツが石川県の協力企業に対して「技能者共同養成所」を開設したのは1957年のことです。「人材育成こそが工業冨国基の基本である」。工業の発展と人材育成に心血を注いだ明太郎の魂は、その後もコマツの遺伝子として、グローバルに引き継がれることになります。

コマツ創業者 竹内 明太郎
(1860~1928)

「工業冨國基」

工業は国を富ませる基なり
人材育成こそが工業冨國基の基本

明太郎の思想

「製作困難でわが国にはいまだ経験のないものを製作する」
「技術は人なり、企業は人なり」
「地方に受けし寄与に報いる」

創業の理念

  • 海外への雄飛
  • 品質第一
  • 技術革新
  • 人材育成

グローバルに息づく明太郎の志

彼の没後27年が過ぎた1955年、コマツは製品の輸出に着手し、これがグローバリゼーションの幕開けとなりました。1970年代初頭には初の海外生産を開始し、1980年代には生産拠点を拡大、以降、マネジメントの現地化とグローバルな連結経営へと広がりを見せていきます。

コマツは人材の雇用と育成に注力するのみならず、事業や経営の現地化を進め、地域の協力企業と緊密な結び付きを育んできました。企業は地域の繁栄に貢献すべきだとする明太郎の強い信念を受け継ぎ、コマツは一度参入した市場からは絶対に撤退しないことを方針としています。

コマツはこの間、生産技術や重要部品開発などの自力を磨いてきました。これらの努力はコマツが2003年以来追求してきた「ダントツ製品」を生み出す基盤となっています。技術革新への取り組みによって現地の人材育成が進むにつれ、ダントツ製品・サービス・ソリューションを通じた現場での安全性の向上、環境に配慮した経営の展開、地域の生活の質向上に向けた活動が展開されました。

グローバル展開の歴史を通じ、明太郎が志した「技術革新」・「人材育成」・「地域支援」という3つの柱は、コマツの事業活動を通じて変わることなく貫かれてきました。

加速したCSRへの取り組み

1990年代、コマツはCSR各分野の取り組みを急速に進めます。1990年に役員で構成する「90年代委員会」を設置し、会社と社会、会社と社員、という2つの側面から、「強いだけでなく、良い企業市民としてどうあるべきか」を議論しました。

環境に関しては、1992年に地球環境委員会を設置し、地球環境憲章を発表。地球環境への取り組みを経営の最優先事項の一つとして位置付けました。2015年には製品使用におけるCO2排出量含む、ライフサイクル全体での中長期の目標を設定し、積極的に取り組んでいます。

ガバナンスについては、1994年に監査役会、1995年に経営の諮問機関「インターナショナルアドバイザリーボード(IAB)」を設立、1999年には執行役員制度の導入と取締役会の改組を行いました。並行して、「コマツの行動基準」の発行(1998年第1版、最新は第9版)、コンプライアンス室の設置など、体制を強化してきました。

この間、コマツは地域人材開発にも力を注いできました。世界中の現地法人は、それぞれ自社で必要とし、かつ地元コミュニティの発展にも役立つような技能開発(産業技術・エンジニアリング・ビジネススキル)を進めてきました。

「その地方に受けし寄与に報いる」
今も息づく、創業の地との共存共栄

コマツウェイ総合研修センタ /
わくわくコマツ館(子供向け展示館)

2011年、創立90周年の記念事業として、創業の地である石川県小松市に開設されたこの施設には、世界中からコマツグループの社員が集い、グローバル会議や研修が行われます。施設には食堂や宿泊機能を設けず、近隣のホテルや飲食店を利用することで、地域の活性化の一助にもなっています。

創業当時の本社屋を模して建設された「わくわくコマツ館」では、コマツのOBが主体となって、地域の子供たちを対象にした理科教室を開催するなど、次世代育成の場となっています。

協力企業とともに成長

コマツの品質と信頼性を支える協力企業(部品などのサプライヤー)とコマツは対等なパートナーであり、協力企業とは常にWin-Winの関係であるべきと考えています。そのため、品質や安全、環境側面のレベルアップを目的として、コマツの安全道場の施設を協力企業に開放したり、認証取得の支援を実施したりしています。また人材育成においても、コマツの幹部候補生教育の場に、協力企業の若手経営者にも参加してもらうなどの支援を行っています。

主力工場の一つ、小松市にある粟津工場は、調達品の約6割を北陸地区で賄っています。コマツの協力企業は、地域の機械産業クラスターを形成しながら、地域の発展に貢献しています。

創業者思想と重なる、コマツのCSR重点分野

コマツは2010年の「環境社会報告書」で、「事業活動そのものをCSR活動と位置付ける」というメッセージを打ち出しました。2011年には、優先課題の選定と特定(マテリアリティ)を行った上で、以下の3つのCSR重点分野を定めました。

  1. 生活を豊かにする
  2. 人を育てる
  3. 社会とともに発展する

コマツが強みを活かせる活動として導き出した3つのCSR重点分野は、創業者である竹内明太郎が抱き、その後も受け継いできた「技術」、「人材育成」、「地域社会との共生」と重なります。小松鉄工所の設立から100年。明太郎の思いは、コマツの遺伝子としてグローバルなスケールで脈々と受け継がれます。

コマツのESGと持続可能な開発目標(SDGs)

2016年4月にコマツが発表した中期経営計画では、前回の中期経営計画に引き続き「イノベーションによる成長戦略」、「既存事業の成長戦略」、「土台強化のための構造改革」の3つの経営戦略を掲げています。

その一方で、企業のESGが重視されているということに鑑み、「ESGを重視する」ということを明言しました。今回の中期経営計画にESGを織り込む上で、コマツの事業・CSRとの関係性を再度検証し、どのような方向性を示すのか、また国際社会が目指す共通の目標として2015年に制定された「持続可能な開発目標(SDGs)」に対してコマツのCSRがいかに関連するかといった議論を重ねてきました。

持続可能な開発目標(SDGs)

2015年9月の国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で提示された指針。17のゴールと169のターゲットから成る。http://www.ungcjn.org/sdgs/index.html

SDGゴールと選定プロセス

これらの議論を基に、持続可能な開発目標を構成する17の「SDGゴール」とそれに紐付く169の「SDGターゲット」をコマツのCSR重点分野・重点活動と照合しました。具体的には、1)相互関連性と2)その関連性の深さの観点で評価を行いました。

【表1:コマツのCSR重点分野・重点活動とSDGゴール】

例えば、コマツは「生活を豊かにする」という重点分野の中の重点活動の一つとして「インフラ整備と生活の向上に貢献する製品やサービスの提供」を掲げていますが、各SDGゴールとSDGターゲットに対して、次のように照合しました。

<例1>SDGゴール 1 (貧困の根絶)

  • SDGターゲット1.1 (2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる)
    関連性は認められませんでした。
  • SDGターゲット1.2 (2030年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、すべての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる)
    関連性は認められませんでした。
  • SDGターゲット1.5 (2030年までに、貧困層や脆弱な立場にある人々のレジリエンスを構築し、気候変動に関連する極端な気象現象やその他の経済、社会、環境的打撃や災害に対するリスク度合いや脆弱性を軽減する)
    間接的な関連性あり、表1の該当箇所を薄い青色で網掛けしています。(表中の①)

<例2>SDGゴール9 (インフラ産業技術)

  • SDGターゲット9.1 (質が高く信頼できる持続可能かつレジリエントな地域・越境インフラなどのインフラを開発し、すべての人々の安価なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援する)
    直接的な関連性あり、表1の該当箇所を濃い青色で網掛けしています。(表中の②)

上記の手順で全てのCSR重点活動と169のSDGターゲットとの関連性を一つずつ判定しました。マス中の数字は、関連性あるSDGターゲットを示しており、関連性が大きいものは濃い青色で表現しています。

コマツのCSR重点活動と関連性が最も大きい5つのSDGゴールとして、以下が選定されました。各SDGゴールは相互に関連し合うと認められているため、コマツはこれらの5つに注力することで、包括的に持続可能な開発目標の達成に貢献していきます。

関連性が大きい5つのSDGゴール:

#8
経済発展と適切な雇用
#9
インフラ・産業技術革新
#11
持続可能な都市
#13
気候変動対策
#17
協業

表2では、表1で選定された5つのSDGゴールとコマツの事業・CSR活動との関係性を示しています。

【表2:SDGゴールとコマツの事業・CSRとの関係性】

今後は、さらに多くの社内外のステークホルダーと情報を共有し、PDCA (Plan-Do-Check-Act)サイクルを回しながら議論を深めてまいります。ステークホルダーに価値をもたらす活動に取り組み、進捗状況について報告してまいります。

【表3:コマツのESGに関する議論・対話(2016年度)】

VOICE -ステークホルダーの声-

「持続可能な開発目標とリベリアにおけるUNIDO-コマツのパートナーシップについて」

(Mr. Stavros Papastavrou)

皆さん、はじめまして。UNIDO(国際連合工業開発機関)のリベリアプロジェクトにマネージャーとして参画しているスタブロスと申します。UNIDOは、貧困の削減や共生可能な社会、持続可能な環境等を促進するために発足した国連の専門機関です。私は、人材の育成と産業の発展が持続可能な社会の実現に必ず結び付くと強く信じながら日々活動をしています。産業界にとって職業訓練の取り組みが果たす役割はきっと大きいはずです。「若者に適切な仕事を」。これが私の目指す目標です。

持続可能な開発目標は、ビジネスセクターの力を重要視しています。開発途上国では特に企業活動が経済成長や雇用創出の要となるため、UNIDOにとっても企業は大事なパートナーです。SDGゴール17が開発課題解決に向けたパートナーシップの重要性を説いているように、民間による投資の促進やビジネスセクターによる経済開発への積極的な関与は極めて重要な意義を帯びています。

日本国政府が推進する「リベリアにおける技術・職業訓練支援による若者の雇用促進プロジェクト」は、リベリアの若者が機械の操縦や整備の技術を身に付けることにより、労働市場に進出しやすくしていくことを目的としています。こういった実践的な技術の修得は全ての業界で求められているものですが、これは若者を指導する側のインストラクターのクオリティが高められて初めて実現するものです。そういった意味でも、リベリア初の職業訓練校の一つを運営支援する上で、コマツとの協業はとても重要でした。

コマツは最新鋭の機材と教育内容で訓練校創設を支援してくれました。安全教育に関する技術指導や、油圧ショベルの無償提供、日本そして南アフリカでのインストラクター教育など多岐に渡るサポートを行ってくれたのです。

協業は持続可能な開発目標の中核を成すものです。共生可能かつ持続可能な産業発展を促進するためには産業界の協力が不可欠だということです。コマツとの協業プロジェクトは、SDGゴール9「レジリエントなインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」の実現に寄与し、リベリアの雇用増大に大いに貢献したということは疑いようもありません。

卒業生の40%が就労機会を獲得

同時に、このプロジェクトはSDGゴール8「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する」にも貢献していると言えます。コマツのサポートによって、リベリアは労働力のグレードアップを成し遂げました。産業界が求める技術を身に付けるための訓練コースを修了した若者が150人も巣立っていったのです。また、このプロジェクトは雇用機会の創出という観点でも効果的で、これまでフルタイム・パートタイム合わせて40%の卒業生が職を得ることができました。このことは、リベリアが経済的な変革の時を迎えるきっかけとなったに違いありません。

産業技術・人材開発・地域支援におけるコマツのリーダーシップは国連持続可能な開発目標を実現するのに不可欠な要素です。コマツとUNIDOのパートナーシップがSDGゴール8・9・17の実現に密接に繋がっていることを誇らしく思います。そして、これからも我々が共に活動する様々な国々できっとお互いの強みを発揮していけるはずだと信じています。

Stavros Papastavrou
Project Manager,
Liberia
UNIDO